【感想】線は、僕を描く/砥上裕將~線一本に、自分を問う~

感想

あらすじ

両親を亡くした日から、すべてが変わってしまった。

何も手につかなくなって、自分の人生を生きることができなくなってしまった。

何もしていない自分は、きっと何者でもない。

ーーーーこれからも、何にもなれないかもしれない。

高校生という若さで両親を失った青山霜介は、穴が空いたままの自分を抱えた状態で、その後の大学生活を過ごしていました。

ある日、何気ない友人の頼み事から、彼は水墨画の世界に触れることになります。

これまで全く関わりのなかった水墨画には、どこか心が惹かれるような魅力がありました。

真っ白な世界に、“線”だけで想いを表現する。

他の何者でもない、彼にだからこそ表現できる想いが、あるかもしれない。

水墨画界の巨匠である篠田湖山の誘いから、青山霜介は自分の内面と向き合っていくことになります。

こんな人におすすめ!

心が洗われるような優しい物語が読みたい
清涼感のある小説を探している
水墨画ってどんな世界?と気になる人

感想:水墨画がテーマの小説ってなんだろう?

私が初めにこの小説を見かけた時は、

「水墨画がテーマの小説ってなに?」

という感想を抱きました。

なんとなく気になり、「線は、僕を描く」という表題に惹かれて購入した覚えがあります。

私自身、水墨画に関する知識は全くなく、雪舟という歴史上の人物がかろうじて思い浮かぶ程度でした。

「水墨画がテーマだから難しい話なのかもしれない…」

という気持ちから始まった読書でしたが、その心配はすぐに杞憂に終わります。

確かに水墨画の知識や用語が物語の最中に描かれていましたが、自然に触れられているため、難しく感じることがなかったんです。

この物語は、水墨画の物語ではなく、水墨画を通して一人の青年が自分自身を見つめなおす物語でした。

だからこそ、物語の導入から、どんどんと深堀りされていく主人公の気持ちに感情移入することができて、物語の世界にのめり込むことができたのです。

激しく感情が吐き出されているシーンはなかったはずなのに、静かに深く深く共感して沈み込んでいくかのような作品でした。

感想:自分の内面は、自分でもわかりにくい

自分の気持ちを言葉にしろと言われても、なかなか難しいですよね。

いざ言葉にしてみても、自分の胸に落ちるような説明なんてできないし、相手にも上手く伝えられません。

主人公の青山霜介が、両親がいなくなってからの気持ちの整理ができていなかったように、心の中で散らかりっぱなしの気持ちなんて大なり小なり山ほどあると思います。

そして、自分の気持ちが説明できない時って、どんな気持ちが自分でもわからない状態だから対処もできないんです。

だから、自分で自分の扱い方もわからなくなるんですよね。

辛い時にどうしてあげれば自分が楽になるのか。

まわりにこの気持ちをどう伝えれば、理解してもらえて、胸のつかえがとれるのか。

そもそも誰かに伝えれば楽になるような気持ちなのか。

この物語では、水墨画や他の絵師を通して、霜介がそんな気持ちと向き合っていきます。

水墨画を描く画仙紙に広がる、真っ白な世界。

その世界に描くたった一本の線に、自分の生き方や命を表現する。

シンプルにみえて、どこまでも奥が深い水墨画の世界は、形のないものに形を与えることを求めてきました。

両親を亡くしてから、自分の気持ちもわからないままの。

そんな、なにもないはずの自分の心を、形にしろと。

感想:言葉にできなくても、なにかが自分の芯としてあれば

「君はなんていうか……、自分のことはまるっきり分からないけれど、自分の周りの人のことはよく分かってる。自分以外のもののことは、必死に見ようとしているっていう気がする」

線は、僕を描く 西濱湖峰のセリフより

物語を読んでいて、なんとなく印象に残ったこのセリフ。

霜介は、なにもなくなってからは、生きようと必死に周りの世界に耳を澄まして目を見張らせてきました。

それは、自分の中にはなにもなくなってしまって、生き方がわからなくなってしまったから。

周りの人たちの生きている姿が、とても眩しく思えたから。

しかし、霜介自身が“何もない”と思っていた自分の心の内には、水墨画の世界ではとても大切とされているものがすでにあったのです。

菊を一本描くにしても、線を一本描くにしても必要とされる、水墨画の本質とされる“命”を感じる心。

写意、もしくは写意性とも呼ばれるものの見つめ方。

自分自身を見てこれなかったその生き方こそが、水墨画の絵師として霜介を際立たせる芯になっていたのです。

師に支えられ、兄弟子に支えられ、恩人に支えられ、そしてーーーー両親に支えられながら、霜介はひとつの答えに辿り着くことになります。

鬱屈としていた気持ちが一気に澄み渡っていくかのような物語の着地は、見事でした。

読み終えた後に、思わず自分の生き方を振り返りたくなってしまいましたね。

「自分はちゃんと、自分の人生を生きられているだろうか?」

そう考えた時に、私はあまり自信を持てませんでした。

そもそも本を読み始めるまでは、自分は何に喜んで、何に腹を立てて、何に悲しむのかも曖昧なまま生きてきたように思います。

自分の辛かった経験や苦手なものに囚われないように逃げていた代わりに、自分の好きなものや得意なことについて考える余裕もなかったです。

しかし、読書に耽るようになってからは、初めて自分の好きなことに時間を使う感覚を覚えました。

自分の気持ちを整理するために、ゆっくりと静かな時間を過ごす。

これがとても心地よかったんですよね。

読書と出会って余裕が持てるようになって初めて、自分の過去や失敗について、後悔とは別に振り返ることができるようにもなりました。

まだ、この小説の主人公「青山霜介」のように、辛い経験と向き合って自分の成長に繋げるところまでは至りませんが、きっと無駄ではないことをこの作品が教えてくれました。

言葉にできない想いをたくさん抱えていて、自分で自分の扱い方がわからなくなっている人には、この作品はとてもおすすめです。

気になる方はぜひ、手に取ってみてください。

目を背けて、逃げ続けていた自分の内面が、もしかしたら自分を支える芯になることだってあるかもしれませんよね。


線は、僕を描く [ 砥上 裕將 ]

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