あらすじ

PMS(月経前症候群)に悩む美紗と、パニック障害で人生を見失ってしまった山添君。
理想と離れていく自分の人生に苦しみながらも、なんとか“今日”を生きていく二人が主人公として描かれていきます。
抑えられない感情のせいで、人との関係が壊れてしまうPMSの恐さ。
簡単なことができなくなって、自分が積み上げてきたものが崩れていくパニック障害の辛さ。
自分ではコントロールできない理不尽に晒されたとき、人はどうやって立っていけばいいのでしょう。
苦しみながらも思いやりを忘れない二人の出会いが、きっとどこかにあるはずの希望を教えてくれます。
瀬尾まいこさんが描く、“今”苦しい人に読んでほしい心の物語です。
こんな人におすすめ!
誰にも話せない弱さを抱えている人
心が暖まる優しい物語に触れたい人
瀬尾まいこさんの作品に興味がある人
夜明けのすべて:感想

二人の抱える問題が、克明に描かれていく序盤。
読んでいて辛くなるシーンが多かったです。
本当はそんなこと言いたくないのに、感情が爆発してしまって相手を傷つけてしまう美紗のシーンでは、周囲のリアルな反応に胸が苦しくなりました。
仕事が楽しくてプライベートも充実していたのに、「電車に乗れなくなった」という理由でキャリアも人間関係も壊れていく山添君の憤りに辛くもなりました。
もし、自分が同じ立場になったらきっと前向きになんて生きられないように思います。
幸せに向かって生きるとか、なりたい自分の目標をみつけるとか。
そんな言葉が贅沢に感じてしまうでしょうね。
目の前の“今”が辛いから。
それでも、理不尽のどん底にあるのは絶望だけじゃないと、ちゃんと教えてくれるのが瀬尾まいこさんの心強くて頼もしいところです。
自分でコントロールできないことに苦しむだけじゃなくて、小さくてもできることに目を向けていけば見える景色が変わるかもしれない。
二人の出会いと支え合いを通して、そんな生き方の土台が描かれていたと思います。
腫れ物みたいに扱うわけでも、しっかりしろ!と厳しく叱咤するわけでもない。
優しく指をさして道案内してくれるような物語に心が癒されました。
夜明けのすべて:心に刺さったシーン

個人的に心に刺さったのは、山添君が美紗の発作の前兆に気付いて、無理やり手を引っ張って外に連れ出すシーン。
そのおかげで、美紗はまわりの人を傷つけることなく発作をやり過ごすことができたところですね。
美紗が山添君の自宅に押し掛けるシーンから繋がって、山添君もこういう大胆で清々しい手の差し伸べ方になっていく。
二人の不思議な距離の縮まり方が、お互いの心の支えのきっかけとなっていくシーンとして印象に残っています。
自分だったら、どうしても“傷つけない”を優先して遠回しな接し方になる気がします。
もしくは下手に突っ込み過ぎて、大きなお世話なコミュニケーションをとってしまいそうです。
強引だけどあっけらかんと人に手を伸ばせる美紗と、ぶっきらぼうでも優しさを返せる山添君の関係は素敵なお手本のようでした。

表面だけをみて、人を判断してはいけない。当たり前なのに忘れてしまいやすい言葉を改めてハッキリと心に刻むことができた作品だと思います。
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