あらすじ

どこにいても、だれといても自分の本音を話すことができない。
5年前に失踪した父の存在がきっかけで、理帆子は他人に心を閉ざしていました。
ドラえもんの作者である藤子・F・不二雄のことを誰よりも敬愛していた父。
どうして何も言わずに消えてしまったのか。
心の奥底で引っかかりを抱えたまま過ごす毎日。
しかし、そんな毎日のなかで、ふと人生を変える出会いが訪れます。
いきなり「写真を撮らせてほしい」と声をかけてきた謎の青年、別所。
不思議と心を許してしまう雰囲気をもった彼の存在は、理帆子の数少ない拠り所となっていくのですがー。
大切な人に伝えたい言葉を。
自分の本当の気持ちを、もう一度見つけるまでの物語。
辻村深月さんが描くドラえもん愛が詰まった“SF(すこし・ふしぎ)”な作品です。
こんな人にオススメ!
辻村深月作品の最初の一冊で悩んでいる方
人との付き合い方に悩みを抱えている方
ドラえもんが好き!という方
※辻村深月作品の読む順番が気になる方は辻村深月作品には読む順番がある?繋がりを楽しもう!をご覧ください!
凍りのくじら:感想

「凍りのくじら」を読みはじめたとき、最初は主人公の理帆子に対して上手く感情移入ができませんでした。
表面的には相手に上手く合わせながらも、内心では相手を見下してコミュニケーションを取っている理帆子に戸惑ってしまったんですよね。
「え、主人公がこんな嫌な性格で大丈夫?」とまず不安になったことを覚えています。
辻村深月さんは、若い世代の心理描写がとにかく上手。
ということは、綺麗なだけではない、若者らしい歪でコントロールできない尖った感情もはっきりと描かれるということでもありまして…。
はじめはその心理描写が生々し過ぎて、理帆子のことが好きになれませんでした。
でも、途中で挫折しなくてよかったと今は思います。
物語が進むにつれて、理帆子がどうして“嫌な人”になってしまったのか。
その過去が描かれていくにつれて、印象がガラッと変わっていくことになるんです。
最初に理帆子のことを苦手に感じた人ほど、読み終わる頃には感情移入してしまうようなストーリーになっていると思います。

「凍りのくじら」は導入の暗さから、ファンの間でも賛否分かれやすい作品。ですが、読み終えたときの感動の振り幅は辻村深月作品のなかでも一際大きな作品ではないでしょうか?
凍りのくじら:心に刺さったシーン

特に心に刺さったシーンは、理帆子が母親の残した父の写真集を目にするシーン。
母親から理帆子への愛情を深く実感できたところですね。
物語を読み進めると、理帆子が本心を話せない理由として、失踪した父が原因だったということがわかります。
本心を話せるほど大切な人をつくってしまうと、いなくなったときに深く傷ついてしまうんじゃないか。
という理帆子のトラウマが切実に描かれていくんですよね。
そんな状況で、「最後の心の拠り所であるはずの母親との距離感」がずっと気にかかっていました。
恋人とも上手くいかず、友人とも本音で話すことができず、どこにも居場所がない。
そこに加えて、母親に対しても上手く甘えられない理帆子の様子が、ずっと読んでいて辛かったんです。
「このまま理帆子はつぶれてしまうんじゃないか?」
と、読者ですら不安を募らせていたタイミングで、理帆子は母親が残した父の写真集を目にすることになります。
そこに書き残された母親からのメッセージとともに。
その内容は、ぜひ本作を手に取って読んでいただきたいです。
母親は、ちゃんと理帆子の気持ちを察していたんだと、読者も心が救われるような印象的なシーンでした。

このシーンから続く、結末までの描き方が本当に心が救われます。切ないけれど手放し難い、大切にしたい読後感を感じることができました。
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